Product Integration Guide

SOM / SBC 導入ガイド

SoM(System on Module)を採用すると、SoC周辺の難しい部分——高速メモリ配線、電源シーケンス、BSP整備——を製品化済みのモジュールに任せられます。一方で、キャリアボード設計や長期供給の見通しなど、SoM特有の検討事項もあります。ここでは選定から量産までの流れを実務の順序で解説します。

01 / Overview

導入の全体像

SoMを使った開発は、大きく4つの段階を通ります。それぞれで判断すべきことが異なります。

  1. 選定用途・性能・インタフェース・動作温度・供給期間から候補を絞ります。ここでの判断が後工程すべてに影響します。
  2. 評価評価キットまたは評価機で実機検証します。カタログ値では分からない発熱、実効性能、BSPの完成度を確認する段階です。
  3. 設計キャリアボードを設計します。SoM側の仕様書(ピン配置・電源要件・機械寸法)に従います。
  4. 量産供給計画とEOL(生産終了)対応を確認します。産業機器では10年単位の供給が求められることも珍しくありません。
よくある失敗

評価を飛ばして設計に入るケースです。カタログ上は要件を満たしていても、実機では放熱が足りない、特定のペリフェラルのドライバが未成熟、といった問題が後から判明します。基板を起こしてからでは修正コストが跳ね上がります。評価機の貸出をご利用ください。

02 / Selection

製品選定の進め方

「どのSoCが良いか」から入ると選択肢が多すぎて決まりません。要件から絞るのが実務的です。

優先順に確認する項目

優先順に確認する項目
順序確認項目判断のポイント
1必須インタフェースEthernet本数、CAN、カメラ入力数など。数が足りないSoCは即座に除外できます
2動作温度範囲産業用途では -40〜85℃ が要求されることが多く、対応品は限られます
3処理性能AI推論があればNPU性能(TOPS)、映像処理ならVPUのコーデック対応を確認
4供給期間量産開始から何年必要か。10年以上なら産業向けSoCに限定されます
5消費電力バッテリー駆動や密閉筐体では放熱設計に直結します
6OS・BSP使いたいOSのBSPがメーカーから提供されているか

ピン互換ファミリという選択肢

当社の Chinchilla シリーズはPin2Pin互換で設計されています。同じキャリアボードのまま、性能の異なるSoMに載せ替えられる構造です。

ピン互換ファミリという選択肢
製品SoC寸法
SSOM-i.MX8MP-ChinchillaNXP i.MX 8M Plus20 x 50 mm
SSOM-i.MX8MM-ChinchillaNXP i.MX 8M Mini20 x 46 mm
SSOM-i.MX935-ChinchillaNXP i.MX 9320 x 50 mm
SSOM-PX30-ChinchillaRockchip PX3020 x 50 mm
SSOM-RK3588-Chinchilla (V1)Rockchip RK358860 x 45 mm
SSOM-RK3588-Chinchilla (V2)Rockchip RK358839.4 x 47 mm
SSOM-RK3588S-ChinchillaRockchip RK3588S39.4 x 47 mm
SSOM-RK3576-ChinchillaRockchip RK357647 x 39.4 mm (検討)
SSOM-i.MX95x-ChinchillaNXP i.MX 9521 x 50 mm (検討)

この構造には実務上の利点が2つあります。1つは製品ラインナップの展開で、上位・下位機種を同一キャリアボードで作り分けられます。もう1つはSoC供給リスクの分散で、採用したSoCが入手困難になっても、キャリアボードを再設計せずに別SoCへ移行できます。

03 / Carrier Board

キャリアボード設計

SoMを使う最大の利点は、難しい配線をモジュール側に閉じ込められる点です。DDRメモリの等長配線やSoCの電源シーケンスはモジュール内で完結しており、キャリアボード側では扱いません。

設計時に確認する資料

差動信号の扱い

USB 3.0、PCIe、MIPI、Ethernetなどの差動ペアは、キャリアボード側でも配線長・インピーダンス管理が必要です。ペア内の長さを揃える層構成でインピーダンスを合わせる不要なビアを避ける——この3点を外すと動作が不安定になります。

見落としやすい点

放熱設計を後回しにしないでください。SoMは小型ゆえに熱密度が高く、性能を出し切るとヒートシンクや筐体への熱伝導が前提になります。密閉筐体で使う場合は、実機評価の段階で連続動作時の温度を必ず測定してください。サーマルスロットリングが発生すると、カタログ性能は出ません。

設計レビューについて

キャリアボードの回路図・アートワークのレビューを承っています。基板を起こす前の確認で防げる問題は多く、特に初めてSoMを扱われる場合はご相談ください。受託設計にも対応します。

04 / Bring-up

ブリングアップ手順

基板が上がってきたら、いきなりOSを起動せず段階的に確認します。問題の切り分けが容易になります。

  1. 電源電圧の確認SoMを装着せずに、各電源レールの電圧と投入順序をオシロで確認します。ここで異常があればSoMを壊す可能性があります。
  2. シリアルコンソールの確保デバッグUARTを最初に確保します。以降の全工程で状況を知る唯一の手段になります。
  3. ブートローダの起動確認SoMを装着し、ブートローダのメッセージが出るか確認します。ここまで来ればSoM側は正常です。
  4. カーネル起動OSが起動し、コンソールにログインできることを確認します。
  5. ペリフェラルの個別確認Ethernet、USB、カメラなどを1つずつ確認します。まとめて有効化すると原因切り分けが困難になります。

デバイスツリーの調整

Linuxでは、キャリアボード固有の構成をデバイスツリーで記述します。メーカー提供の評価キット用デバイスツリーをベースに、自社キャリアボードの構成へ書き換えるのが一般的な進め方です。

# 変更が必要になる代表例
- 使用するUART/I2C/SPIの有効・無効
- Ethernet PHYのアドレスと接続形式
- カメラ・ディスプレイの接続先とレーン数
- GPIO の機能割り当て
- 電源レギュレータの定義

この作業でつまずく場合が多いため、受託でのブリングアップ支援も承っています。

05 / BSP & OS

BSP・OSの選択

SoMメーカーは通常、いくつかのOS向けにBSP(Board Support Package)を提供します。どれを選ぶかで開発の進めやすさが変わります。

BSP・OSの選択
選択肢向いている場面注意点
Yocto量産向け。必要な機能だけの最小構成を作れるビルド環境の習得に時間がかかる
Debian / Ubuntu試作・評価。パッケージが豊富ですぐ試せるイメージが大きく、起動も遅め
Buildroot小規模・軽量なシステム大規模構成では管理が煩雑になる
AndroidタッチUIを持つ機器カスタマイズ範囲が広く工数が読みにくい
FreeRTOS / Zephyrリアルタイム制御。ヘテロコアのサブCPU側Linux側との協調設計が必要

実務では試作はDebian系、量産はYoctoという進め方が多く見られます。試作段階でのスピードを優先し、量産に向けて構成を最適化する流れです。

確認しておくこと

BSPの更新頻度とカーネルバージョンを確認してください。長期運用する製品では、セキュリティ修正が継続的に提供されるかが重要になります。カーネルがLTS(長期サポート版)かどうかも判断材料です。

06 / Longevity

長期供給とEOL対応

産業機器では、量産開始後10年以上の供給を求められることがあります。SoM選定時に確認すべき点を整理します。

当社は商社として、メーカーからのEOL情報を継続的に把握しています。採用いただいた製品については、供給状況の変化を早い段階でお伝えします。

07 / Pitfalls

つまずきやすい点

性能が出ない

多くは放熱が原因です。連続負荷でサーマルスロットリングが働き、クロックが下がっています。まず温度を測定してください。次に多いのがメモリ帯域の飽和で、この場合はデータの流し方の見直しが必要になります。

特定のペリフェラルが動かない

デバイスツリーの記述漏れか、ピンマルチプレクサの設定違いが大半です。1つのピンが複数機能を持つため、意図した機能が有効になっていないケースがあります。

起動しない・不安定

電源投入シーケンスとリセットのタイミングを確認してください。特に複数電源を持つ構成では、投入順序が指定されていることがあります。また、ブート媒体(eMMC/SD/USB)の選択ピンの設定も確認対象です。

試作では動いたのに量産で不具合

個体ばらつきや温度条件による現象が疑われます。試作の数台では顕在化しなかったマージン不足が、量産数量で表面化するパターンです。設計段階で温度・電圧のマージンを確保しておくことが対策になります。

08 / Support

評価機貸出・サポート

ポジティブワンでは、選定から量産までを通してご支援します。

まずはご相談ください

「用途は決まっているが製品が絞れない」「他社製品からの置き換えを検討している」といった段階からお手伝いします。仕様が固まっていなくても構いません。

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